「うちの叔母が新興宗教にはまって、全財産をつっこんだ」「母親が霊感商法にはまって蒸発した」こんな話を、どこかで耳にしたことがあるかもしれません。霊感商法や悪質な新興宗教にはまって、人生を棒に振ったという人は少なくありません。

巧みに人の弱みにつけこんで、全財産を奪い取る霊感商法。「自分は大丈夫」と思っていても、魔の手はすぐそこまで忍び寄っているかもしれません。霊感商法詐欺にあって被害を受けてしまったとき、相手に支払った高額なお金は取り戻せるのでしょうか?

どんな対策をとればいいのか、霊感商法の被害の実態も合わせて解説します。今あなたが心から信じているあの人も、もしかしたら詐欺師かもしれせん。

もはや人ごとでなない霊感商法の詐欺被害の実態

ホテルに呼び出され、三時間もの祈祷を受けたあと…

A男さんは60代。もうすぐ定年を迎えようとしています。持病を抱えていますが、最近少し体調が優れません。先日仕事先で知り合った男性にぽろりとそのことを話したときに、その男性が「病気を治せるすごい先生がいるから会ってみないか」と持ちかけてきました。

なんでも「苦しんでいる人のために無償で働く」ことに喜びを感じている人格者で、祈祷は1,000円でいいとのこと。もちろん一度でよくならない人もいますが、中には奇跡的に一度で病気が治った人もいるので、よかったら行ってみないかと言われました。

A男さんはお金にも困っていなかったので、物は試しとその男性に連れられてあるビジネスホテルを訪れました。そこには男性が待ち受けており、さっそく祈祷を始めました。

途中、「あなたには霊がついているが、かなり悪質だ。この祈祷では足りない、特別な祈祷が必要だ」と言われ、聞けば10万円と言います。持ち合わせがないと断ると、「この悪霊はあなたの命を狙っている。今ここでなんとかしておかなければ、数日後あなたの命はない」と言われました。

そこで、手持ちがなかったA男さんはキャッシュコーナーに行き、10万円を下ろして男性に支払いました…

家族のことで霊媒師に相談に行ったら、「先祖の祟りだ」と言われて…

B子さんは50代。2歳年上の夫と成人した二人の娘がいます。娘の一人は実家を出て一人暮らしをしていますが、下の娘は働きもせず、ずっと実家暮らしです。夫婦ももう若くなく、夫も退職間近。娘の将来を心配したB子さんは、知り合いにそのことを相談してみました。

すると、「自分の知っている人が山奥で悩んでいる人の鑑定をしている。その人は特別な霊感がある人で、イタコみたいなことをやってたくさんの人を見ているらしい」と話し始めました。なんでも、口コミで人気が広がり、今から予約しても3ヶ月待ちだと言います。

B子さんは藁にもすがる思いでその人の連絡先を聞き出し、予約を取って数ヶ月後にその人の元を訪れました。
開口一番言われたことが、「ご先祖がかなり怒っている」という言葉。びっくりして続きを聞いてみると、「あなた、お墓を建て替えたか、家を建て替えたかしたでしょう」ということ。

「そのときにちゃんと供養されなかったご先祖様が怒って、あなたの娘さんに悪さをしています。娘さんが働きに出ないのはそのせいです」と言います。そして、「むこう3年間、きちんと神棚を作って朝晩毎日祈祷しなさい。祈祷に必要な一式は私が用意します」と言われました。

祈祷のための道具一式は300万円。その代わり、月に一度その人に直接相談ができるとのことです。B子さんは、こんな人気の人に毎月相談できるのだから、きっと娘もよくなるにちがいないと、夫婦に何かあった時のためにと貯めていた300万に手をつけ、全てその霊媒師に支払いました。

霊感商法で被害を受けている多くの人が、このように「先祖の祟りだ」「特別な祈祷が必要だ」などと言葉巧みに追い詰められて、高額なお金を要求されています。「なんとか解決させたい」とか、「死にたくない」とか、そういった心情につけ込まれるのです。

こんなセリフや状況に要注意!霊感商法の悪質な手口とは

最初は無料、または安い

A男さんのように、最初は人格者を装い、安い料金やもしくは無料で祈祷をしてあげると持ちかけるケースも多いものです。霊感商法は詐欺も多く、一般的にも「なにか胡散臭い」と思われがち。

そのため、人格者であるという偽りのアピールをすることで、最初の「胡散臭い」というハードルを下げる目的があります。そして実際に自分のところに来させた上で、改めて本来の目的である高額な請求をするのです。

その場でいきなり高額なものを要求し、返答するまで帰さない

「この祈祷は10万円するんだよ」と事前にわかっていれば、そもそも「怪しい」
「高すぎて払えない」と思って、祈祷にすら行きませんよね。だから、霊感商法の詐欺師は、事前にそう行った情報を流しません。

そして、当日相手と接触してしばらくしてから、さも仕方がないというふうを装って高額請求をしてくるのです。B子さんの場合は、先祖の祟りを鎮めるために3年間の祈祷が必要だといわれました。そして、そのためには神棚などの一式が必要で、その費用として300万円を要求しています。

そしてさらに悪質なのが、「帰ってから考えます」というように持ち帰らせないこと。悩んでいたり、断ろうとすれば、さらに脅してきます。A男さんも一度は断っていますが、「ここでなんとかしなければ命はない」と言われ、10万円の祈祷を受けるという返答をしています。

長時間拘束して疲れさせ、正常な判断能力を奪う

A男さんは、まずビジネスホテルで3時間の祈祷を受けました。いきなり知らない人から、知らない場所で、3時間も拘束されて祈祷を受けるということは、かなりの身体的負担です。悪質な霊感商法ではこの手法が使われることが少なくありません。

体に入った悪霊を追い出す、と言って2時間も3時間も正座させ、火の粉を振りまく。病気になっているのにさらに栄養を与えない、水を与えないで数時間その場に拘束する。こういったことが、日常的に行われています。

「そのままだと死ぬ」「数ヶ月後に破滅する」などを連発して不安を煽る

こちらも霊感商法の典型的な手口ですが、詐欺師はとにかく不安を煽ってきます。「このままでは死ぬ」「先祖がひどく怒っている」…言われただけで怖いですよね?

しかも、相談している側はすでに病気になっていたり家族仲が悪かったりと、困難な状況に陥っており、それをなんとかしたいと思って霊媒師の元に来ているのです。その状況で、「このままだと死ぬ」「このままいくと破滅する」と言われたときの心理的な影響の大きさは、計り知れません。

お金と命を天秤にかけさせる

とはいえ、さすがに数百万という高額の祈祷や商品などを買えと言われても、はいそうですかというわけには行きません。大抵の人は、一度は断るわけです。「そんなお金はありません」「生活ができなくなります」こういった理由で断るわけですが、そこでさらに霊感商法の詐欺師はこう言います。

「お金と命、どっちが大事ですか?」
柔らかく静かに言われるというよりも、威圧的に上から言われる、責める口調で言われるということが多く、被害者は萎縮してしまったり、なんて自分はお金に汚いことを言ってしまったんだと自分を責めることすらするのです。そして、高額のお金を払わせます。

人は自分の行動を正当化する理由を探す

高い買い物をして、その商品が期待に沿うものではなかったとき、「損した!」と思いますが、同時に「でもこれも勉強になったから」「こうすればもっと使えるから」と、高い買い物をした自分のことを正当化していた、という経験はありませんか?

人の心理として、自分が取った行動が間違っていたと認めるのは勇気がいるもの。そのため、なんらかの理由をつけてそれを正当化していくものなのです。これは、霊感商法の被害者にもあてはまります。

たとえば、騙されて500万円もする壺を買ったとき。うすうす騙されているのではないか、と気づいていたとしても、それを認めると500万円もの大金が騙し取られたことを認めなければなりません。

だから、「いや、これでいいんだ」「この選択は正しいんだ」と思い込もうとするのです。数百万というひと財産を失うため、もう後には引けません。霊感商法はこんな人の心理も巧みに利用してきます。

霊感商法はこんな法律に抵触する可能性がある

中には、信じきってしまってすべての財産がなくなってもまだ霊感商法から抜け出せず、借金を重ねてしまう人もいますが、悪質な霊感商法の被害にあったら、どうしてもお金を取り戻したいもの。お金を取り戻すためには、相手の行為が違法である必要があります。

法的に問題ないことに対しては、なかなか「払ったお金を返せ」とは言えないからです。これが言えるのが、後から詳しく解説するクーリングオフや契約の解除ですが、こちらも当然にできるわけではありません。一度交わした約束は、そう簡単には破れないということですね。

霊感商法は、このような法律との関係で問題になります。ここを知っておくことは、霊感商法の被害を最小限に食い止めるために必要なことです。

クーリングオフ(特定商取引法9条)

「字画が悪いから名前を改名しなさい」「印鑑を変えることで悪霊を寄せ付けなくなります」などと不安を煽ったあげくに、何十万、何百万もする高額の商品を売りつけられることがあります。

基本的に訪問販売でこう言った商品を売りつけられたときには、契約書を受け取ってから8日以内であれば、理由がなくても契約解除をすることができます。これをクーリングオフと呼びます。

クーリングオフは「特定商取引法」という法律の9条にその規定があります。クーリングオフは理由がなくても8日間であれば契約の解除ができます。さらに、例えば、事実ではないことを告げられた、意図的に事実を隠されたまま契約させられたような場合にはその期間が変わります。

霊感商法でいうならば、「先祖の祟りがある」とか、「病気になったのは悪霊がついているからだ」というような場合ですね。こうして事実ではないことを告げられて契約をした場合には、契約を取り消せるまでの期間は8日よりもさらに期間が延びます。

「追認できるときから6ヶ月、もしくは契約を結んでから5年いない」であれば契約の取り消しができることになります(特定商取引法9条の3)。

ちなみに「追認できるときから」というのは、祈祷を申し込んだり印鑑を買ったりと言ったその契約が霊感商法詐欺にあたることを知ってから、という意味になります。要するに、騙されたと知ってから6ヶ月、または契約を締結してから5年以内であれば契約の取り消しができるということです。

民法に抵触する(公序良俗違反や詐欺、強迫)

霊感商法詐欺の相手方と契約をしたとしても、その契約が社会的に適切ではないとされれば、「公序良俗に反する」としてそもそも無効となります(民法90条)。

たとえば、原価数百円もしないような壺を、数百万円で売ったり、霊視もできないのに「自分には特別な能力がある」と偽り、数百万、数十万という高額な鑑定料金などを要求するような場合も、公序良俗違反になる可能性があります。

このほか、霊感商法が詐欺や強迫にあたる場合には、民法96条文に違反しますし、違法な行為をして相手の権利や利益に害を与えたときには、不法行為(民法709条)による損害賠償などを要求できるケースもあります。

刑法に反する(詐欺罪や恐喝罪など)

民法や特定商取引法以外にも、犯罪として刑法に違反する行為であることも少なくありません。例えば、霊感がないのに「霊視ができる」と偽って高額なお金を払わせた場合には、詐欺罪(刑法246条)が成立する可能性もあります。

「このままだと死ぬ」「どうなってもいいのか」「大変なことが起こる前に全財産を投げ出せ」などと迫ってお金を要求した場合は、恐喝罪(刑法249条)が成立する可能性もあります。

霊感商法の被害、どこに相談すればいい?

とにかく財産をすべて奪われてしまったので、なんとかしてお金を取り返したいと思ったとき、どこに相談すればいいのでしょうか?

消費者センターが対応してくれることも

ネット上で自分の身を守るお札やパワーストーンなどを購入したけれど、品物が送られてこなかった・品物が劣悪なもので、ネットに掲載されていた画像のものと全く違った、というような場合には、消費者センターに相談してみるのも有効です。

消費者センターには、日々いろいろな相談が寄せられます。基本的にはアドバイスをしてくれる機関ですが、状況によっては消費者センターが詐欺の業者に対してなんらかのアクションを起こしてくれることもあります。

雑誌広告を見て開運商品を買った消費者に、不安をあおり次々とお金を請求する販売業者/独立行政法人国民生活センター

詐欺罪や恐喝罪などの犯罪は警察へ

さきほども簡単に説明しましたが、霊感商法はケースによっては詐欺罪や恐喝罪などの犯罪に該当することがあります。また、霊感商法の悪質な場合には、祈祷と称して体に暴行を加えられたりと、生命や身体の危機を感じることも少なくありません。

もしも霊感商法の手口が悪質で、犯罪にあたると思われる場合には、警察に詐欺の相談に行くことも有効な手段の一つです。警察は証拠がなければなかなか動いてはくれませんので、日頃からできるだけ証拠を残しておくようにしましょう。

被害が高額なら弁護士に相談の一択

もしも霊感商法の被害によって、かなりの高額なお金を騙し取られたという場合は、まず弁護士に相談することを強くお勧めします。高額なお金を騙し取られているケースの多くは、詐欺罪などの犯罪にも抵触する可能性があります。

その場合は警察に被害届を出すこともできますが、実は警察に行くにしても、弁護士が同行するのとしないのとでは、警察に与える影響が格段に違うのです。また、お金を取り戻したいとなればまず内容証明でお金を請求したり、霊感商法の業者相手に裁判を起こすことにもなりますが、その際にも弁護士の力が必要になります。

確かに、弁護士に依頼するのはここにあげた方法の中で一番費用がかかってしまうもの。実際に依頼するかどうかに関わらず、まずは相談してみて、客観的な状況を把握することは必要です。

霊感商法で高額の被害にあったら、まずは弁護士に相談を

霊感商法について見ていきました。霊感商法詐欺はその被害額が高額で、人によっては破産に追い込まれる、多重債務者になるなど、極めて悪質なケースが多い詐欺の一つです。

霊感商法の手口を知り、被害にあった時にどんな機関に相談に行けばいいのかを知っておくことで、あなたの周りの大切な人を守ることができるかもしれません。もしもすでに霊感商法の被害に遭ってしまっている人も、諦めずにまずは弁護士に相談してください。